カテゴリ:

Unknown

鍋は日本を代表する食文化のひとつですが、どうして「冬は鍋」なのでしょうか。理由のひとつは、冬は鍋の具材が「旬」(しゅん= おいしくなり、安く豊富に出回る時期)を迎えるからです。水温が低い冬の海で獲れた魚は、身が引き締まり、しかも脂が乗っています。魚種も豊富です。次に野菜。白菜、水菜などの「葉もの」は、鍋物には欠かせませんが、秋から冬にかけて気温が下がり、霜にあたると、やわらかさと甘みが増します。冬は酒つくりの最盛期、しぼりたての日本酒が出回ります。これがまた鍋に合います。

長時間、火を使う鍋料理は暖房の代わりにもなります。家族や気の合った仲間が、暖かい部屋で和やかに飲んで食べれば、心まで温かくなって、鍋はいっそうおいしくなります。

「鍋を囲む」「鍋をつつく」という言葉にも、日本人の鍋に寄せる特別な思いが込められています。鍋は人と人をつなぐもの、単に食べるだけではないのです。

              ◇

それにしても日本人は鍋が好きです。いわゆる「ご当地鍋」でも数十種類を超えます。例えば北海道の「石狩鍋」(特産の生鮭を主材料にしたみそ仕立て)、秋田県の「きりたんぽ鍋」(硬めに炊いたご飯をつぶし、秋田杉で作った太い串に竹輪のように巻き付けたのがきりたんぽ。これを直火=じかび=であぶってトリ肉や野菜と一緒に鍋として食べる郷土料理)。青森県の「せんべい汁」(具材は小麦粉で作った南部せんべいやトリ肉、魚)、江戸時代から伝わる東京の「ねぎま鍋」(葱とマグロ)、同じく東京の「ちゃんこ鍋」(力士の料理として始まった鍋。しょうゆ、みそ、カレーなど味はさまざま)、京都の「湯豆腐」(kokokaのそばの南禅寺が発祥の地とされています)、同じく京都の「丸鍋」(「丸」はスッポンのこと。コラーゲンたっぷり、スタミナ満点です)

大阪は「てっちり」(ふぐ鍋)です。大阪エリアでは、フグのことを、当たる(中毒する)と死ぬことがあることから、鉄砲(てっぽう=銃)と呼んできました。「ちり」は主に魚介類を具材にした鍋料理、これと「てっぽう」が一緒になって「てっちり」になりました。

フグの内臓、とくに肝臓には「テトロドトキシン」という猛毒が含まれていて、以前は多くの中毒事件が発生しましたが、調理には免許が必要になるなどして、事故は大幅に減っています。

ほかに「猪鍋」(ししなべ)。具材はイノシシの肉。薄切りにして丸く巻き、大皿に盛ると、牡丹の花のように見えることから「ぼたん鍋」ともいいます。ここから生まれたのが「猪食った報い」(ししくったむくい)ということわざ。隠れて美味しいものを食べると、いつか罰があたる、という意味です。

             ◇

鍋には、大事な「登場人物」がいます。それが「鍋奉行」です。

奉行は平安、鎌倉時代からあった行政、司法、金融・財政などをつかさどる武家の役職のことです。どの奉行も、大変な権力を持っていました。「鍋奉行」は、もちろん実際に存在していた役職ではありません。鍋料理をするときに、具材を入れる順序や位置、火加減、味付け、食べごろなどをことこまかく指図して、場を仕切る人物のことで、昔の「お奉行さま」のような振る舞いをすることから、「鍋奉行」と呼ばれています。逆に鍋が煮上がるのをじっと待って、もっぱら食べるだけの人を「待ち奉行」といいます。「町奉行」のもじりです。

最近は鍋奉行の出番がない「ひとり鍋」を楽しむ人が増えて、専用のセットも売られています。鍋もそれを食べる人も、時代とともに移り変わっているようです。


 kokoka日本語チューターブログチーム